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  悪夢と決意  

「鈴仙! しっかりして鈴仙!!」
 目から溢れる涙。さっきから止まらない涙。
 でも、それよりも止まらない、地面に広がる真っ赤なもの。
「よ……うむ……」
 涙によって滲む視界。ぼやけている視界。
 でも、真っ赤なものははっきりと、鈴仙の服に滲んでいく。
「鈴仙、■んじゃダメ! 私が守ってみせるから!!」
 疲れきった重い体。鉛のように重い体。
 でも、この手に抱える鈴仙の体は、まるで抜け殻のように軽い。
「あ…………る……」
 体中を襲う痛み。無数の傷が発する痛み。
 でも、そんなものよりも、私の心はもっと痛い。
「何? 何が言いたいの?」
 赤いもの。鈴仙から出る赤いもの。
 でも、それが流れ出るたびに、鈴仙の顔から赤みが抜けていく。

 …………………………

 突然訪れる静寂。

「――妖夢………………愛してる」
 そう言って鈴仙は私に抱きつき、唇を奪う。
 私のファーストキス。それは鉄の味で――
 鈴仙は、
 そのまま、
 
 動かなくなった。


 ――なんで?


 私はそのまま鈴仙の体を強く抱きしめる。
 でも、鈴仙は私のことを抱き返してくれることはなくて。


 ――なんで?


 私の服を赤いものが汚していく。
 でも、鈴仙の顔は赤みなどまるで無く青白くて。


 ――……なんで?


 …………………………


 またもや静寂。


 鈴仙を抱きしめ、空へと顔を上げ、


 ――なんで……■んでしまったんだろう?


 私は慟哭した。



◇◆◇◆◇◆◇



「――む! 妖夢!!」
 気がつくと私は白玉楼の自室にいた。
 目の前には、妙に近くに鈴仙の顔があり、こちらを心配そうに見つめている。
「大丈夫? 涙流したりうなされたり……悪い夢でも見た?」
「悪い夢?」
 そう言われ、思わず先ほどの光景が頭の中を駆け巡る。
「確かに……悪夢を見た」
 思わず体を震わせながらそう言うと、
「――そっか。よほど怖かったんだね。じゃあ、もう少し……このままでいいよ」
 若干顔を赤らめながら、優しく微笑む鈴仙。
 その言葉で初めて、後頭部の暖かく、そして柔らかい感触に気付く。
 まさか!
 思わず起き上がろうとするが、肩を鈴仙に押さえつけられ、
「膝枕……落ち着くでしょ。妖夢も昔してもらわなかった?」
 そういえば、小さい頃誰かにしてもらったことがある気がする……。
 あれは誰だったっけ?
 膝枕されたり、抱きしめられたり――
 
 トマラナイ――
 ニジム――
 カルイ――
 イタム――
 アカイ――

 ――妖夢………………□してる

 っ!!

 夢での光景が再びフラッシュバックし、脳内を埋め尽くす。
「……妖夢?」
 私の様子が変化したのに気付いたのか、またもや心配そうに覗き込む鈴仙。
 
 テツノアジ――
 
 ――いや、しっかりしろ魂魄妖夢。鈴仙が心配そうな顔をしてるぞ。
 あれは夢だ。夢だ!
 あんなことは現実にならない!
 いや、させない!!

「……鈴仙」
「ん? 何?」
 鈴仙の名前を呼ぶとだんだんと気持ちは落ち着き、返事を聞くことで夢での光景が薄れていく。
 鈴仙は確かにここにいる。私がここにいさせる!
「鈴仙は、私が絶対に守るから」
 ゆっくりと、だがしっかりと発せられる、誓約、信念、決意の篭った言葉。
「……うん」
 その言葉から何かを感じ取ったのか、笑顔で黙って頷く鈴仙。
 その笑顔を見た瞬間、夢の光景のフラッシュバックは跡形も無く消えていった。

-終-





★あとがき
まず、うどんげ大好きな人すいません。
切羽詰って閃いたシーンが冒頭のシーンだったんですよ……。
一応、ダーク→甘いという感じに作ったつもりですが、ダークに侵食されて甘さ控えめな気もします。
友人は甘さ40%と言っていましたが。
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